急性糸球体腎炎は、溶連菌の感染を原因とする急性扁桃炎の後に、10日前後の潜伏期間を経て血尿や蛋白尿、尿量の減少、身体のむくみ(浮腫)、高血圧――で発症する一過性の病気です。4~12歳のお子さんに多い病気ですが、成人にもみられます。以前は比較的頻度の高い腎炎で、集団的に発生したこともありましたが、医療環境が整った現在では、溶連菌感染に対して早期に抗生剤が投与されるため減少し、発症しても症状も比較的軽くなってきています。
腎臓の大きな働きの1つとして、腎臓にある毛細血管の集まりである糸球体と尿細管で、流れてきた血液を濾過して血液中の不必要な成分を排出し、必要な成分を再吸収して血液に戻すことがあります。
他方、溶連菌の感染が起こると、ヒトの身体は防御するために免疫反応として溶連菌に対する抗体を産生し、その抗体と溶連菌は結合して「抗原抗体複合物」を作製します。
この抗原抗体複合物は、血流にのって腎臓の糸球体に運ばれひっかかり、そこで炎症が起こります。また、抗原抗体複合体の産生により免疫に関連する補体(ほたい)も活性化され、さらに炎症がひどくなります。その結果、糸球体に目詰まりや破壊が生じて、急性糸球体腎炎になってしまうのです。
通常、扁桃炎などの上気道炎から、1~2週間の潜伏期をおいて、突然に血尿、蛋白尿、乏尿(ぼうにょう:1日に400ml以下に尿の量が減る)、浮腫(ふしゅ:むくみ)、高血圧――などの症状が現われます。
目で見てわかるような血尿は30%ですが、検査をするとすべてに血尿がみられます。
浮腫はまぶたのむくみを朝起きた時に気づくことが多いです。
血圧は、高血圧(収縮期血圧140mmHg、拡張期血圧90mmHg)にはならなくても、ほとんどの例で平常時の血圧より上昇します。
適切な治療により症状が軽減され、再び尿が出始めると、これらの症状は急速に改善します。特にお子さんの予後は極めて良好で、ほとんどが治癒します。
しかし、成人では30~50%に、何らかの異常が長く残るといわれています。その場合は経過観察が必要で、時になかなか治らずに腎機能障害が残ることもあります。また、女性の場合は、完全に治癒しても1年間は妊娠を避けたほうがよいとされています。
溶連菌の感染後、1~2週間の潜伏期の後に血尿が出現し、さらに、補体の
低下が認められれば急性糸球体腎炎と診断してほぼ間違いありません。
溶連菌感染後の腎炎なので、それに対する治療が中心になります。ただし、尿量の減少、浮腫(ふしゅ:むくみ)、高血圧がみられる場合には、入院が必要です。
具体的には、保温と安静を行うとともに、腎臓に負担をかけないために、塩分と蛋白質を制限します。制限の程度は、患者さんの腎障害の程度により異なりますので、医師の注意を守ります。
また、浮腫もみられるので、1日の水分量を出ている尿量+800ml以下にします。極端に尿量が少ない場合は、カリウム含有量の多い生野菜、果物、芋類も制限が必要になります。例えば、バナナやメロン、カボチャやブロッコリー、海藻類、豆類などです。利尿薬を用いて尿を出すように努めますが、反応が悪い場合には、一時的に血液透析(けつえきとうせき)が必要になることもあります。
また、腎炎が発症した時には、すでに溶連菌の残存は少ないのですが、残っていた場合に経過を悪くする可能性があることと、他の方への感染予防の目的で抗生剤を投与します。
高血圧に対しては降圧薬が用いられます。